2023/07/19 公開

SNS被害を想定したカスハラ対策

近年、カスタマーハラスメント対策の重要性が広く認知されるようになってきました。

カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます)、すなわち顧客からの不当・悪質なクレームは、企業で働くスタッフ・従業員に過度な精神的ストレスを与え、健全な企業運営に支障を生じさせかねないため、企業にはカスハラからスタッフ・従業員を守るための対応が求められています(厚生労働省「カスタマーハラスメント対応企業マニュアル」参照※注1)。

そのようなカスハラ対策の一環として、先日、興味深い新聞報道がされていましたのでご紹介します(令和5年6月13日読売新聞オンライン「名札はフルネームから名字だけの表記に…SNS特定、ネットに晒される「カスハラ」対策※注2)。
同記事では、SNSの普及で、名札から個人情報を検索されたりインターネット上に名前を公開されたりしてプライバシーが侵害される懸念から、地方自治体の職員について、業務中に身につける名札の表記をフルネームから名字のみに変更する取組みが紹介されています。

担当職員の名前を明らかにすることは、職務の公正性担保や職員への親しみやすさにつながるものですが、ひとたびSNS上で職員にプライバシー侵害等の被害が生じた場合には、その被害回復は容易ではありません。職員に安心して職務に従事してもらい、職員をカスハラから守るために、大変良い取組みだと思います。
記事でも紹介されていますが、漢字フルネームから平仮名で名字のみの記載に変更したり、民間企業では名札をイニシャルだけに変更したりと、顧客サービスとスタッフ・従業員の安心安全とのバランスをどのように図るか色々と工夫がされており、参考になります。

なお、実際のカスハラ・不当要求の場面では、相手方から、名前を名乗るように言われたり、名刺を差し出すよう要求されることがあります。法的には対応者の名前を名乗る義務もありませんし、名刺を差し出す必要もありませんので、断って全く問題ありません。断ったうえで更に名前や名刺を要求してくる場合には、悪質な不当要求として警察へ通報してもよいと考えます。現場判断で断ることが難しい場面もあるかと思いますので、このような場合に備え、名札の変更だけでなく、名前を名乗れと言われたり名刺を差し出すよう言われた場合の具体的な対応について予めマニュアルを作成しておくことや、内規を定めておくことで、ルールとして名前の回答または名刺交付をしていないと答えさせるといった工夫も有益だと考えます。

2023年7月19日
弁護士 小谷 知也

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