2025/01/16 公開
スクウェア・エニックスのカスハラ対応方針
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス(以下「スクウェア・エニックス」といいます)が、HPで「カスタマーハラスメントに対する対応方針」を公開したことがニュースになっています。※1
同方針には、以下の記載がありました。
一部のお客様より、当社グループの役職員及び当社グループの商品・サービスに携わる関係者(以下「当社役職員等」といいます)に対して、直接、またはサポートセンターやSNS・掲示板サイト・動画配信サイト等を通じ、人格否定、暴力、誹謗中傷、脅迫、加害予告、業務妨害予告、ハラスメント等の「カスタマーハラスメント」に該当する行為が発生しております。
スクウェア・エニックスといえば、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストといったゲームを輩出してきた会社です。私自身、小さい頃から多くのファイナルファンタジーシリーズをプレイしてきました。
そのように愛着のある会社が「人格否定、暴力、誹謗中傷、脅迫、加害予告、業務妨害予告」などの被害に遭っている実態があるのだと思うと、1人のファンとしては、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストが好きならば、制作者を攻撃しないで欲しい・・・と悲しい気持ちになります。
また、「SNS・掲示板サイト・動画配信サイト等を通じ」という部分に、現代多様化しているカスハラの実態が如実に顕れているように感じました。
1人のファンとしてではなく、弁護士として同方針を見て、良いと感じた点は、以下の2点です。
1つ目は、カスハラがあった場合には、以下のように、厳格な対応を取ることを明示している点です。
当社グループは、お客様より当社役職員等に対して社会通念上相当な範囲を超えるカスタマーハラスメント行為があったと判断した場合、カスタマーサービスの提供または当社グループの商品・サービスのご提供を中止させていただく場合がございます。また、当該行為が悪質である場合には、警察・弁護士等にも相談のうえ法的措置や刑事手続を含む対処を行うことがございます
2つ目は、以下のように、カスハラ行為が具体的に列挙されている点です。
ハラスメント:
暴力行為、暴力的な振る舞い
暴言、威嚇、強要、強迫、過度な追及・叱責
名誉棄損・侮辱等の誹謗中傷、人格否定、個人攻撃(メール、お問い合わせフォームでの連絡、インターネットでのコメントや投稿を含む)、加害予告、業務妨害予告
執拗なお問い合わせ、来店の繰り返し
無許可でのオフィス、関連施設への来訪または居座り
電話やお問い合わせを含む長時間の拘束行為
人種、民族、宗教、門地または職業等に関する差別的な言動
無断での撮影や録画等の肖像権・プライバシー侵害
性的嫌がらせ、つきまとい行為、ストーカー行為
不当要求:
合理性のない商品の変更・交換や金銭補償の要求
合理性のない対応や謝罪の要求(対面での対応や役職を特定した謝罪の要求を含む)
社会通念上相当な範囲を超える過剰な商品・サービスの提供要求
当社役職員等に対する合理性のない過度な処罰の要求
これらを良いと感じたのは以下の理由です。
私の経験上、カスハラをする人の中には、自らの行為がカスハラと分かっていてやっている人と、カスハラと分かっていない人がいます。
カスハラと分かってやっている人は、相手の弱点を探し、弱点をついて相手をゆすり、利益を得ようとします。弱点というのは、
- この会社は少しクレームを言えば、すぐに金品を出してくれる
- この会社は個々の従業員がクレームに対応しており、組織として対応していないから、上司にも相談せずに、こちらの要求を簡単にのんでくれる
- この会社は何が正当なクレームで何が悪質なクレーム(カスハラ)かもわかっていない
といったことです。このような人に対しては、
- うちの会社は悪質なクレーム(カスハラ)については、厳格に対応します
- うちの会社は会社として対応方針を掲げ、組織として対応します
- うちの会社は、このような行為を悪質クレーム(カスハラ)と考えています
と明示することで弱点を見せないことができるのです。
カスハラと分かっていない人との関係でも、具体的な列挙があることで、自分の行為がカスハラに当たるかもしれない、もしかしたら、自分の行為によってサービス提供の中止などの厳格な対応をとられるかもしれないということを考えるきっかけを与えることができます。
このような意味で、カスハラに対する抑止力となると思われますし、従業員も、会社がカスハラに対して厳格な対応を取る方針でいることを知り、安心して業務に当たることができると思います。
このような方針を明示する会社が増え、少しでもカスハラのない世の中になれば良いと思います。
2025年1月16日
弁護士 鶴田昌平