2025/11/25 公開

カスハラ被害が極めて重大となりうる事例

カスハラ被害は多数ありますが、今回は、カスハラ被害の結果として、極めて重大な事件につながってしまった例をご紹介します。

  • 公的機関の就業者であったAは、業務においてBを担当をすることになりました。AがBのための業務を開始してから、Bは連日、Aに長時間の電話をかけ金銭要求などを行なうようになりました。
  • 当初、Aは「できないことはできない」と適切に回答していました。
    しかし、Bはその回答に激高し、怒鳴り、何度も謝罪を求めました。こうしたことが繰り返されるにつれ、次第に、就業者AはBをできるだけ怒らせないように、Bの感情を刺激しないように対応するようになっていきました。
    BはAに対し非難、罵倒を続け、金銭支払等の不当要求を続けました。さらに、BはAが職場の上司に相談することを厳しく禁止しました。
    このようにして、BはAを精神的に支配していきました。
  • Bの要求はエスカレートし、Aに対して個人的にBの自宅を訪問することを要求してきました。
    Aは、もし要求を拒否した場合は、Bが激高して長時間の非難、罵倒にさらされることは間違いないことから、自宅訪問に応じるようになりました。
    自宅訪問に応じると、さらに個人の携帯電話番号を教えるよう要求されてこれに応じ、また、個人の自動車を貸すよう要求されてこれにも応じました。
    この段階では、BとAの間には主従関係が構築されていました。
  • Aの職場には連日Bから電話がかかり、電話ごしにBが大声で怒鳴っていることは広く知れ渡っていました。
    周りの職員はAのことを心配し、大丈夫かと声をかけていましたが、Aの心理的負担が解消されることはなく、また、Bからの精神的支配、主従関係がなくなることもありませんでした。
    Aは職場において人事異動を希望し、業務のため不眠が続いていることを申告しましたが、人事措置はなされませんでした。
  • ここまでで既に、重大なカスハラ被害であると思います。しかし、この後さらに次のような事件が起ってしまいました。
    あるとき、Bから呼び出されたAは、Bが人を死なせたことを知らされ、その死体の遺棄に協力するよう要求されました。Bからの精神的支配、主従関係の下にあったAは、言うことを聞かなければ恐ろしい目にあうと考え、死体遺棄に協力してしまいました。犯行は程なく発覚し、BもAも逮捕され、刑事事件で有罪となりました。

この事案は極端な例であると思われるかもしれませんが、長期間の激しい非難、罵倒にさらされた場合、たとえ最初は適切に対応できていたとしても、次第に精神的に支配され、主従関係が構築され、ついには、どのような要求にも応じざるを得なくなってしまうという、カスハラ被害の重大性を示す事例です。

この事案では、カスハラへの組織的取組みはできていませんでした。現在、カスハラ対策の法律、条例による後押しのもと、公的機関を含めた各事業者はカスハラへの組織的取組みを進めていることと思います。カスハラ被害が極めて重大となり得ることを知っておくことは、取組の意義を理解する基礎になると思います。

2025年11月25日
弁護士 米倉 正実

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