2026/04/04 公開

医療現場におけるカスタマーハラスメント(ペイシェントハラスメント)

令和7年6月4日、いわゆる労働施策総合推進法(正式名は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)の改正案が成立し、カスハラを、「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されること」と定義づけるとともに、企業がカスハラについて、必要な対応を行うことが義務付けられました。

このような流れを受け、ますますカスハラについては社会的関心が高まっているところですが、先日、「医師の約6割がカスハラ経験」と題するYahoo!ニュース(スポーツ報知)の記事(※1)を見つけました。

本記事では、医師486人を対象に、令和8年2月6日~13日にアンケートを実施したとのことであり、「カスハラを経験したことがある」と答えた医師は約6割で、被害内容として多い順に、「暴言・大声」、「長時間の拘束(執拗な問い詰めなど)」、「ネットやSNS上の誹謗中傷」であったことなどが紹介されています。

私が本記事の中で着目したのは、カスハラ対応の難しさとして「『応召義務』があるため診療拒否がしづらい」との回答が46.3%であったという部分です。
この応召義務とは何かですが、医師法19条1項に次の定めがあります。

診療に従事する医師は、診療治療の求めがあつた場合、正当な事由がなければ、これを拒んではならない

多くの取引においては、契約自由の原則というものがあり、契約を締結する相手方を自由に選択することができます。極端に言えば、「この相手はあまり人として好きではない」という理由であっても、契約を拒むことができます。

しかし、医療においては、上記の定めがある為、原則としては診療治療を拒むことができないとされているのです。このような義務を、応召義務と呼びます。
では、カスハラ被害に遭っている場合でも、この応召義務にはあらがえないのでしょうか。

この問題を考える上で、参考となるのが、厚生労働省医政局長による「応召義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」という通知(医政発1225号第4号令和元年12月25日)(※2)における、次のような記載です。

診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。
※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等

したがって、カスハラについては、「正当な事由」があるとして、診療を拒むことができます(但し、緊急対応が必要な場合は別途検討が必要です)。
そうすると、「『応召義務』があるため診療拒否がしづらい」との回答が46.3%であったという事実は、まだまだ医療機関において、カスハラについては診療を拒むことができるのだという認識が浸透していないということかもしれません。

当職は、定期的にハラスメントの研修を行っており、本年の2月には医院に対してもカスハラ研修を実施しています。このような研修を通して、医療機関においても少しでもカスハラ対応が浸透していくことを願っております。

医療機関の方で、カスハラ研修の実施を検討中の方がいらっしゃいましたら、気軽に弊所までお問い合わせ下さい。

2026年4月4日
弁護士 鶴田昌平

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